モクレン

朝の散歩 まだ日差しはよわよわしいが モクレンの蕾が春のおとずれを我先に嗅ぎ分けんと触手をのばしているように感じる。

 私がモクレンの花を意識するようになった時期は高校三年生の時である。なぜ40年も前のことをそんなに断言的に言えるかというと モクレンという花を知るきっかけが 庄司薫:著『白鳥の歌なんか聞こえない』であることを今もしっかり覚えているからである。 この本の冒頭に“モクレン”がでてくるのである。
 当時 僕の家の周りには“モクレン”という木々などなく いや無いというより このような木々が生育するような周辺環境ではなかった あるのは 松 とか 柳 せいぜい 洋物風なものといえるかどうか分からないが イチョウの木ぐらいが あるくらいで“モクレン”なんていう 僕からするとハイソサエティな感覚をおぼえる 木々などなかった。
 この“モクレン”という言葉に 淡い憧れを感じていたのであろう。
歌の文句ではないが「思春期から大人へ」 まさしく私にとっての登龍門になった一冊が この『白鳥の歌なんか聞こえない』ではないかと感じている。
 今 もう一度 読み返してみると 当時の時間の流れが今に比べて緩やかなことを感じた。